今月のコラム
出版人の戯れ言 竹内道夫
出版に足を踏み入れてから十数年になる。
公私の区別がつかない程、雑用に追われているにもかかわらず、なかなか採算が合わないという現状が目の前に立ち塞がる。
丹精を込めた本が売れないむなしさは、編集者にしかわからない。
だがそんな私をたえず見守り、励ましてくれる人々もいる。
地方の町で教員をしながら小説を書き、太宰治賞候補になった今村実もそんな一人であった。
私の出版事務所のある鳥取市から電車で一時間以上離れた町にいて、勝手に営業所長を名乗りことあるごとに知人に出版を
勧めてくれた。あの励ましがなければ、どうなっていたかわからない。
その今村が昨年九月、忽然と逝った。遺言には、戒名はいらない、進行は竹内になどといった、葬儀のことが認められていた。
思えば晩年の彼は、文学に憑かれていたが、それいじょうに仕事に疲れてもいたかもしれない。
その後見つかった出版計画には、4点が計画されていた。
一周忌までにと私の心は焦ったが、さまざまな思いが去来して、思うように進まなかった。
それでもなんとか間に合わせ、墓前に捧げた時はいつまでも涙がとまらなかった。
ただがむしゃらに突っ走ってと錯覚していたが、今になって多くの人々に支えられてきたことに気がつく。
そしてまだ残る素朴な自然、既に姿を消していったものの語り部となって出版を考えてみたいと思うようになった。
試行錯誤を繰り返し、結論のない結論をひたすら追い求めながら、それでも私の本づくりは続くにちがいない。