1945年8月15日終戦…
この日、創業者・小川菊松は、出張先の岩井駅で終戦の放送を聞き、帰京の汽車の中で日英会話に関する出版の企画を考えついたという。
「私は、8月15日の頭に浮かんだヒントを早速実行に移し、拙速主義で『日米會話手帳』なるものを発行することにした。そこで『科学画報』の編集をやっていた加藤美生君に、何かこうした方向のもので、企画してみるように命じて、一夜で和文の原稿を作り、それに英訳を入れて、四六半截判の32頁という、実におそまつなものであるが『日米會話手帳』と銘打って発行することにした」(自著『出版興亡五十年』より抜粋)
この『日米會話手帳』は、9月15日傍系会社の科学教材社から出版、注文が殺到して地方には間にあわず、輸送の困難さもあって、各地の親交の深かった書店主にも紙型を送って発行し、合せてその数360万部。しばらくして他出版社より類書が発行されはじめると、本書の刊行意義は達成したとして、年末にはあっさりと絶版にしたという。
戦後の出版ベストセラー史を語るとき、まずもって俎上にあがる『日米會話手帳』と故・小川菊松。混乱のまっただなかにあってなお、冷静に社会情勢やその動向を見極め、いま読者が何を求めているかを的確に推し測り、いち早く出版という形で応えていた出版人がいたことを、私たちは新世紀へ確実に語り継いでいきたい。
誠文堂新光社はまもなく創業90周年を迎えるが、創業者の出版姿勢は連綿と継承され、ユニークな出版路線で活躍している。
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