第13回 出版業界人研修 基本教育講座
5月10日(木)
出版業界の現状/田辺 聰(たなべ あきら) 日本書店大学学長

 書店は太陽である。
 書店は著者と読者を結ぶ橋である。
 書店の売り場は劇場である。

1.変革渦中時代の出版界

 1. 出版界の座標;狩猟・農耕時代→手工場時代→産業革命→労働集約時代→工場生産時代→脱工場化時代・第三の波・情報化時代。
出版・書店業界はこの情報化の波をまともに影響を受けている。

 2. 書店で扱う媒体の多様化: 情報の意味。 内容の重さ。 ビヒークル(Vehicle;乗り物・載せ物)。
「本」は書かれた内容の乗り物、あなたは乗り物としての本を売りますか、中の情報を売りますか?

 3. 紙の辞書と電子辞書の相克; 本と電子の相克。電子辞書が売れるのは嬉しいが、言葉を覚え分析思考する能力獲得に差が出来る。紙と電子のそれぞれの長所を認めよう。

2.出版界の業績

 1. 販売高(推定)04年・書籍9429億円、雑誌1兆2998億円、05年書籍9197億円、雑誌1兆2767億円、06年書籍9326億円、雑誌1兆2200億円。合計04年0・7%増05年2.1%減・06年2.0%減。トヨタの年間利益は約2兆円・・・。

 2. 書籍の特徴; 低価格化志向、テレビや映画などとのメディアミックスセール、ベストセラーの鈍化。

 3. 雑誌の課題; 月刊誌の衰退(たとえば、女性雑誌の重さ美しさ・情報摂取が自主的に・内容細分化、これらの現象を書店としてどう捉え、動くか?書店現場で読者の生の声を集めまとめ(情報を)出版社に伝えよう。

何冊売れたかを情報提供するのは大正時代的な書店の仕事だ。書店の大型化といっても実際に書店員の目が届くのはせいぜい150坪程度。
本を知る〜そのジャンルを知る〜、お客様を知る、そして出版社・編集に伝えていく。
出版社の人もそれを期待している。)、増刊・別冊・ムック・少年コミック誌の不振。
 書店に未来はないかというと、決してそうではなく、必ず盛り返してくる。

3.変貌する出版社―出版社再編成時代の到来、ビジネスモデルの大転換;事業部制・―制作販売現場の分割整備・販売部門の強化―販売スペシャリスト組織化、複合書店対策・商材開発・販促強化・販売部門(SP)の分離・分社化・持ち株会社化。

 1. 機能高度化―グループ再構築化;主婦の友社やポプラ社の会社としての再構築の例。株式上場や持ち株会社なども進む。

 2. 出版物の展開―電子出版への模索(紙を売る→コンテンツを"展開"する方向へ); 紙と電子の融合―三省堂『大辞林』対策=紙の辞書を出し追補をインターネットで提供し相互補完して販売、PC、携帯で読むデジコミ新潮『COM2』(eBookJapanチャンネル扱い、『本の窓』。
 このような出版社の現状対応と同時に、書店も新たな対応をしなければならない。(出版社との勉強会もするとか)

4.流通;トーハンの桶川計画―本格稼動へ機構改革、日販の王子物流センター24時間稼動へNEXT21プロジェクト; 書店としてはこれからの変わり方に注目しなければならない。

5.書店

 1. 二極化する書店;巨大化する書店―コーチャンフォー2950坪(本は1300坪)・宮脇書店総本店2000坪、減少する書店;王様の本・鶴林堂書店・アークブックセンターの倒産など。

 2. 個性化(顧客重視・棚を掌握)と協業化(ネット21・志夢ネット)

 3. 書店スタッフの自覚―本屋大賞の功罪; 佐藤多佳子『一瞬の風になれ』講談社、小川洋子『博士の愛した数式』新潮社?、恩田陸『夜のピクニック』・リリー・フランキー『東京タワー』、  
★「ただの『店員』ではなく『書店員』でありたい」青森県成田本店・桜井美怜氏。

 4. 書店スタッフの能力アップ
   1) 現場で活躍する優れた書店人を模索する。
   2) 自分流の研究ノートを作るー「私の棚の哲学」「米子・本の学校」
   3) 伸びる書店人; 読書が好き・知識の吸収が好き・人生を思索するのが好き・映像が好き・携帯電話が好き・読み聞かせが好き・商売が好き。

 書店は太陽である。 書店は著者と読者を結ぶ橋である。 書店の売り場は劇場である。


*講師プロフィール*

1930年大阪生まれ。大阪大学法学部卒。(株)田辺企画社長。旭屋書店・旭屋出版で洋書、企画部門から経営担当を経て(株)田辺企画設立。書店新風会会報編集室、出版流通評論、エッセイ、編集企画業務を手がける。著書に「本の森神話学」など。書店新風会顧問、JPIC読書アドバイザー専任講師、書店大学学長。日本出版学会・日本文芸家協会会員。

商人の機微/能勢 仁(のせ まさし) ノセ事務所

仕事上海外の書店を見て歩くが、欧州の書店は潰れていないが、アメリカの書店は潰れ新たになっている。

欧州の書店が潰れない理由は専門職・自信を持っている(無愛想に見えても質問をすると豹変し親切詳しく応じてくれる例でも分かるように)からではないだろうか。

日本の場合は、忙しく四六時中動いている、その中でも好きならば時間を作ってでも、できるのではないだろうか。

1.勝ち組み、負け組み、生き残り組み:(書原さん『書店ほどたのしい商売はない』の例)

 3年前は勝ち組み3負け組み7、最近は勝ち組み2負け組み8。立地とスペースの広さで素人でもある程度勝てる。

書店は、取次のデータを活用して金太郎飴書店になりましょう、その上で自店のお客さんに合った対応をする。

固定客・ファン創りでもある。品揃えは、点(新刊やベストセラー)と線(残しておかねばならない本・常備を導入する場合は自店で選び版元さんにお願いする。)と面でする。書店は人の育て方を重要視しなければならない。

書店のサービスは商品知識と親切(お客様の案内)。かつて商品知識は先輩が良く知っていたがIT技術の導入で差がなくなってきた。

そのなかで書誌検索の能力とやる気で差が出来る。書原さんはスリップによる体感を大切にしている。本には本籍地と現住所がある。

本籍地は本来の分類ジャンル(例えばCコード)であり、一方話題になっているジャンルやコーナーが現住所で、同じ本でも陳列場所は変わる。

一ヶ月で販売できる冊数がわかってコーナーで売り、残りは全部でなく本籍地に戻す。このように陳列でも仕入でもプロの仕事をしていくことが必要。

取次が見る書店は、販売数よりも入金率・返品率、版元では、話を聞いてくれること(私見)。

2.生き残りの条件:商店は時代対応業である。

 言い換えれば、トレンドを知っているということ、本の現住所を知っている、分からなければ調べて知ること。さらに販売予測部数の割り出しや利益確保の計算やリスクを負って販売していく覚悟が必要だろう。

今年コミックレンタルが合法化されたが、これは第二次書店革命の序曲だろう。レンタルコミックのマーケットは40%が女性でこれが書店の販売を変え売り方も変える。(かつて郊外型・POS・本以外の商品・売り場の拡大・売り方など諸革命があった)客数の減少がトレンドだが、レンタルコミックの導入でお客さまを呼ぶ努力も必要。

しかし、トレンドに媚びず、自分の店の姿勢をお客様に伝える努力も必要。お客様がレジへ持ってきた本を売るだけではなく「こういう本もありますよ」と勧める。

3.人は見た目が9割: 言葉は7%しか伝えない。

では何で判断するか?表情と声の抑揚や大きさが93%というデータもある。お客様と目線を合わす、子どもさんなら子どもの目線にあわすためしゃがみ笑顔で話し掛ける、など。(中国は目をあわさず接客などない。イタリアは店員から明るく声をかけてくる、など国情によって様々)

4.教育意識が大切: 我々がやってはならないことは"無意識で"すること。

 意識することは、教育意識が第一で、顧客意識も重要、ほかに原価、安全、集団(チームワーク)、美意識(クリンネス;掃除・整理整頓)、改善意識も意識して仕事をしたい。

 新入社員には、いきなりレジや返品をさせるのではなく、まず店の方針を理解させてからレジに入れる。

意識の教育は出来るだけ具体的にする。例えば原価意識の教育にはセロテープの使用する長さを教えるとか袋代の金額を知らせるとか。

顧客意識なら雨の日に傘さして買いにきてくださることのありがたさを説明、ファンを創る接客を教育。教育意識は結局人を愛する慈しむこと。

 他に、空間の法則がある。お客様に後ろから声を掛けることは厳禁、愛情の空間である横から声かける。本を薦めるときも同じ。

5.何といっても接客が大切:
  新幹線の例 5S Study Sincerity Simile Speedy Smartness
           5A アタマニクルナ アワテルナ アセルナ アキラメルナ アテニスルナ

6.まとめ・・・こころのリボン:  『こころに残る美しい話』より。

最後に、ラジオ番組「心のリボン」でのことをご紹介します。ある小学校でのこと、運動会を終えて、校長先生が生徒たちに話している。

「1等賞のブルーリボンの人、がんばりましたね、座ってください。」

「2等のグリーンのリボンのひと、来年はブルーを目指しましょうね」

3等の赤リボンのひとにも「がんばりましょうね」と座らせました。

あとには、リボンのない子供たちだけがたっていました。父兄もこれには驚き、シーンとしたとき、校長先生は続けて話し始めました。

「リボンのない人たち、本当に残念でしたね。あなたたちには、私から、こころのリボン を贈ります。来年はがんばりましょうね」と、リボンをなげる真似をしました。

お店で部下をお持ちの人、部下の中には努力しても実らない人もいるとおもいます。そんなときこそ、心のリボンをつけて(愛情を持って)、がんばって行ってほしいとおもいます。


*講師プロフィール*

1933年千葉市生まれ。慶応義塾大学卒業後高校教諭を経て、多田屋常務取締役、アスキー取締役出版営業統括部長等を歴任。現在、ノセ事務所代表取締役。著書『出版業界がわかる本』『書店経営がわかる本』(山下出版)『書店』(教育社)『新・書店発想法』(出版ニュース社)『書店の商品管理』『書店の社員教育』(日本書店大学)『世界の書店をたずねて』(本の学校郁文塾)『商人の機微』(中央経済社)他多数。



雑誌販売の成功事例 -優秀な担当者とは/徳田純一(とくだ じゅんいち)マガジンハウス

まず、マガジンハウスという会社の歴史を、歴代創刊雑誌のエピソードを交えて説明。資料はマガジンハウスHPにあり。

・低迷を続ける雑誌について、

・低迷の要因は?

・1970年1771が→2000年3433(雑誌のアイテム数です。女性誌で代表されるように内容の細分化で新しい雑誌が創刊された結果)こうなると広告収入を当てにしないと成り立たないが、読者とともに歩みつつ、且つ利益を出していくために苦慮しているのが低迷の原因。

ほかにフリーペーパーの増加もある。新聞のフリー化が起こっているアメリカでは書店が伝統を破り雑誌も扱っている。

・アメリカの書店における雑誌は?・・・「NEWSSTAND」が雑誌売り場として出来ている。
このような低迷の中で、書店さんも書籍と同じで出版社の雑誌担当と大いに話し、協力することが大切。

私の尊敬する書店人の「雑誌販売の取り組み実例」

1、新宿・山下書店(故・山下重之社長)・・・戸板販売;時間帯でお客も違うので売る雑誌を変えて。

    山下書店で仕事をした方々には、
  吉祥寺・松和書店(松崎店長)・・・5坪書店で雑誌販売。(現在は閉店)
  盛岡・さわや書店(伊藤清彦店長)・・・キャスター付き平台など、その手法をさらに進化させている。

2、銀座・教文館(故・中村義治社長)・・・銀座4丁目での店頭販売・閉店後の店頭での雑誌販売。

  福家書店(松山利男店長)・・・「書店の売り場は暗かった」福家以来書店店内は明るくなった。
   人通り多いところで声を出して売る。「ターザン」の創刊号拡材にバナナを、と発想、2t用意。

3、吉祥寺・弘栄堂書店(荒木長一店長)・・・立地を最大限に活かした雑誌の積極販売。Hanakoが2万部販売。追加で売っていくと部数が伸びる。追加分を持たない出版社もあるが書店は出版社にアピールをしていこう。

4、札幌・リーブルなにわ→西国分寺・books隆文堂(高橋小織社長)・・・雑誌に手書きPOP(第二特集で結構売れる。売り切れも表示する。)

5、上本町・ルーブル書店(辻本隆司社長)−創刊雑誌への取り組み(店頭装飾&POP)

6、六本木・青山ブックセンターなど・・・雑誌と書籍との並列販売。
  特集中心の雑誌を書籍の売り場に持っていくと結構売れる。書店さんは出版社と連絡しあい、2号先くらいの特集を聞き準備することも出来る。お客さまより半歩先に行っていると売れる。

7、国立・東西書店(雑誌担当・長谷川さん)・・・雑誌担当者の眼力、追加対応。(売れ数予測できる)
  いけだ書店池袋店(森岡葉子店長・現くまざわ書店本部 部長)

8、富山(魚津)明文堂書店(清水満社長)・・・雑誌定期購読。外商でも店頭でも、出版社とタイアップして企画をすすめることも考えてみよう。今年度もトーハン雑誌の定期一万軒達成し、ダントツの一位、二位がセブンイレブン。

雑誌を見てると客層がわかる、客層が解れば実用書やムックなどの品揃えが分かり店が分かってくる(豊中・田村書店)

 関西で売れない雑誌はダメ!

 私は「雑誌」を育てるのは、書店さんだと思います。

 読者の言葉を伝える、最高のモニターです。

 雑誌担当者は(雑誌が好きな人)でなければなりません。雑誌を好きになることです。

 書店さまも出版社も、大切なのは人です。


*講師プロフィール*

1945年、旧満州生まれ・鳥取県米子市出身。1968年、平凡出版(株)(現在のマガジンハウス)入社、広告部配属。広告部営業課長・販売促進部課長などを経て1989年、大阪支社営業部長。「HANAKO」関西版創刊準備のため大阪支社設立。1990年、「HANAKO west」の関西版創刊号すべてに携わる。2000年、営業局(販売・宣伝・制作)局次長。2006年、マガジンハウス専属営業セールスマネージャーとして、販売会社、首都圏有力書店を中心に営業活動し現在に至る。



世界にひろがる紙芝居/酒井京子(さかい きょうこ)童心社

1.紙芝居との出会い;童心社は紙芝居の研究会から生まれた会社。


 童心社の編集者として。
児童文学に目覚める(古田足日さんから学んだこと;子ども集団を描いた作品が少ないし、保育園の子どもを描いた本がほしいし、もっと子どもの現実を深く掘り下げた作品が欲しい、等の話から『おしいれのぼうけん』が生まれた)。

ベトナムから学んだこと。まついのりこさんとの出会い。ACCU活動の結果、現地出版社に大きな反響があり講座を行ったが、紙芝居の基本の説明から始めなければならなかった。(この場合は昭和30年代に一世を風靡しテレビの普及で消え去った街頭紙芝居とは違う)2001年に「紙芝居文化の会」の設立(会員350人・17カ国)。

紙芝居 実演、まついのりこ・さく「おおきく おおきく おおきく なあれ」

2.紙芝居の形式

 絵本と比べて考えると、紙芝居は綴じられていないし表に絵 裏に文章がある。子どもは絵本の中に入って旅をする。絵本の絵と文章は一緒に目に入ってくる、テーマは同じでも語り方が異なる、読書は基本的には、個のものであり、紙芝居は集団のものである、など。

3.紙芝居の独自性

 1. 出ていき広がる  現実の空間にいる演者が、舞台(紙芝居の台枠〜実物は波型で、これは出て行くことを強める)から一枚を引きぬき、次の一枚を、ゆっくり、また 早くぬくなどの演出で、次の一枚に(作品世界に)入り込むようになる。見ている人を作品世界に集中させていく。

 2. 集中とコミュニケーションによる共感; ぬく・・・集中する。舞台・・・集中を強める。さしこむ・・・集中を強める。演者と観客は向き合い、一緒にいることが感じられる。演者の存在は強い。集中は共感の土台・コミュニケーションは共感を強め深める。演じる側も、見る側も互いに作用しあいコミュニケーションをとりながら演じられるのが紙芝居。※今なぜ紙芝居か?人々のつながりが弱くなっている現代において、紙芝居の果たす役割は大きい。

4.世界へ広がる紙芝居(17カ国)

 先進資本主義国とアジアでは、紙芝居の受け取り方が異なる。ベトナム(グエン・タン・ブーさん)オランダ(リンデルト・クロムハウトさん)フランス(ジュヌュビエーブ・パットさん、マリー・シャルロットさん)ドイツ(ミュンヘン国際児童図書館)インド(ウニタさん)など海外の方たちが紙芝居によせる気持ちから、学ぶことが多い。特にフランスやドイツでは、文化・芸術だと評価されるのは、紙芝居がこの共感やコミュニケーションの世界を生み出すからだろう。

5.紙芝居で何を伝えるか?

 戦前、戦意高揚に利用された歴史があったことでもわかるように、紙芝居は観客の間に共感の世界を生み出すし先導もするので、何を語るかが大事。生きることを否定するものは好ましくない。「愛と勇気と冒険」を語っていきたい。書店さんが何を良いと思ってくれるか(見識)によって、出版社が作った文化は開花する。書店人は、日本の文化を創る大きな役目を持っている。

6.紙芝居略史

 1930年東京下町に生まれる。街頭紙芝居の誕生(非衛生的・非教育的という批判)今井よね・高橋五山。紙芝居協会。戦争と紙芝居。戦後の紙芝居。など。

 最後に、紙芝居 実演、脚本・堀尾青史 絵・田島征三「あひるの おうさま」。


*講師プロフィール*

1946年生まれ。1968年より、童心社の編集者として児童書と紙芝居の編集に携わる。『おしいれのぼうけん』・『14匹のシリーズ』等のミリオンセラー絵本を生み出す。1984年童心社編集長・1998年童心社社長に就任。2001年に「紙芝居文化の会」を著者、演者、読書運動家と共に設立。最近は、日本各地はもとよりオランダ・フランス・ドイツ・スイス等で紙芝居の講座を開催し、日本独自の文化財である紙芝居の普及に力を注いでいる。