第7回 出版業界人研修 基本教育講座
5月8日(火)
塾長挨拶/今井直樹(代理) 
「本の学校」出版業界人研修・第7回基本教育講座開講にあたりましてひとことご挨拶を申し上げます。
皆様ご承知のように、不況に強いと言われ、戦後右肩上がりを続けて参りました出版業界も、このいわゆるデフレスバイラルと呼ばれる経済情勢の中、いまやだれも経験したことのない不況に見舞われております。
また、ITの発達等でこの業界も大きく様変わりして参りました。読者の本の選び方、出版物の形態や流通につきましたてもこれまでとは違った流れも出ております。10年後、いまある書店のどれだけの書店が勝ち残っているだろうか、そういう話題まででる時代です。これまでの常識が通用しない、過去の経験が役に立たないこういう時代だからこそ、教育の重要性がますます増していると思います。
このような厳しい状況下ですが、今年もこうして基本教育講座を開催する運びとなりました。余裕のある時代ではありません。大多数がぎりぎりの人数で経営しているのが現実です。今年は受講者を募集しても果たして参加してくださる方があるだろうか心配しておりました。しかし今年も登録者数延べ155名、全コース受講者5名の昨年並みのお申し込みをいただきました。ここにいらっしゃる方にはきっと得るものがある、明日のかてになるものが何かつかめると信じております。
この基本教育講座は、多くの業界の「先達」のご理解とご協力によって成り立っております。業界を様々な分野でリードしていらっしゃるいわばキラ星のような方々こちらが出向いて行ってでもお話しを聞きたいような方々が業界の発展に役立てば、あるいは後輩の役に立とうと、忙しい時間をやりくりしてわざわざこの山陰の地にかけつけて講師を務めてくださいます。もちろん地元の講師も同様です。ほんとうにありがたいことでございます。
 しかしいくらいいお話しでも、受ける側にその気がなければ身にはつきません。受講される皆様方も10日あまりにわたるロングランで時には心身ともにお疲れになることもあろうかとは存じますが、この貴重な機会を生かし、そして業界人の職能教育の場として設立いたしました「本の学校」を十二分に利用され、しっかり学んでいただきたいと願っております。
以上、簡単ではございますが、開講にあたりましての塾長としてのご挨拶とさせていただきます。
平成13年5月8日
「本の学校」郁文塾 塾長 今井彰(代読)
書店は太陽である/田辺 聰  田辺企画
<項目>
●水戸藩の弘道館
●読者との契約
●書店スタッフは高度な専門職
 「The right book,for the right person,at the right time.」

 川柳雑誌「番傘」の作家岩井三窓に忘れられぬ読書への句がある。
「近寄るな、男が本を読んでいる」というのである。読書は添い寝のときから…とか、そんな読書推進スロ−ガンが多いなか、読書は全身全霊を込めてするものだという、男の所作を感じる。近頃は「近寄るな、女が本を読んでいる」ということになっているようだ。
 平塚らいてうが明治44年、女性だけの文芸誌「青鞜」の創刊で叫んだ言葉が「元始、女性は太陽だった」というのだった。当時は人を刺すような衝撃的な出来事である。その叫びが今、男どもに分かってきている。出版業界の太陽は、読者と直接向き合っている書店であり、取次でなければならない。書店が自ら発熱体となって、太陽であり続けるには何をしたら良いか。その前に次の心構えをしてほしい。

 その1.
 IBMは「think」を社風にしている。社内で使用する1本の鉛筆にもそれを入れている。「考えよ!」。これは日常のル−チンワ−クではないのである。
 その2.
「聞いたことはやったことではない」「見たことは実行する」。これは私たちの研究会が各地の書店視察の時の合言葉である。

 幕末には名のある私塾がある。萩の松下村塾、大阪で緒方洪庵が開いた適々塾(適塾)などである。適塾は洪庵が江戸へ移るまでの僅か17年間で終ったが、明治日本に大きな役割を果たす福沢諭吉や大村益次郎を輩出した。勉強するとはどういうことであるのか、知る例である。「本の学校」で系統立てたテキストを学ぶのであるが、この学校の思想の基盤となった今井書店三代、今井兼文の志を体得してほしい。
 徳川斉昭は水戸の弘道館で子弟の育成に努めた。彼はペルリが来航する30年も前に外国の脅威を予告したが、幕府は取り合わなかった。
 書店は今、読者と接する最前線で危機感を体感しているはずである。目をひらいて物事を見ている書店人は、このことをはっきりわかっている。

<項目>
●文化の螺旋型発展
●木版→金属活字→電子出版
●情報化時代・言論の自由と読者
●出版界の三位一体思想
●産業として成立した出版業
●読者層の形成
●出版界のIT導入
●流動化する出版流通
●充実する本との出会いの場

 現象として感じたものを、本の姿に定着するのが出版社(著者・編集者)である。本は取次を通り、書店から図書館・読者に渡る。読者に読まれた本は社会の動きとなり、出版社のウォッチングで、また本になる。この繰り返しは言論・表現の自由を柱とし、時系列螺旋状に発展していった。
 我々のしらないところでなにかが起こっている。本を作るのはパルプであり、昭和40年代の業界は、製紙印刷の工業力と、強大な広告力で本が売れた。
 いまIT時代となり、古典的書店の仕事から脱皮しなければならなくなっている。読者と最終的にまみえるのは書店である。読者の動向を一番知っている書店が、本を作る出版社にどれだけフィ−ドバックしたのだろうか。ほんの一握りの人たちだけで本がつくられてはならない。業界全体が一つになって行く、それが三位一体である。
 オリエンテイションという言葉は、キリスト教のオリエントからとられている。オリエントは東方、つまり一つの方向を向くということで、父と子と精霊が一体となるというのである。三位一体とは、一つの方向に向くことで、大きな効果を上げることである。
 木版出版が金属活字に移り、電子出版が出現した。読書界は紙で伝える情報、電子で伝える情報、両方を受容することになった。書店は読者に、読者が求めるものを、一番利用価値の高い方法で伝えなくてはならない。
 出版業には聖域という考えがあった。今45億冊の生産産業である。出版産業という呼び方がされている。出版業界には産業人の自覚が必要である。また文化人の意識を持たなくてはならない。産業人として、定価を外れたものは産業人の考えで対処しなくてはならない。
 ヴァ−チャル書店はそれほどの浸透がない。読者は本の手ざわりが喜びである。ヴァ−チャル書店のデ−タベ−スの作り方に問題もあるが、2割程度が上限というのが大方の考えである。しかし、脱グ−テンベルクの世界にあることも確かである。流通は多重的チャンネルになる。
 書店はオンデマンド出版という、新しい読者に、新しい形の対応も求められる。時間の競争である。

<項目>
●読書推進運動の高まり
●読書アドバイザ−の育成
●書誌情報の電子化

 読書推進活動としての「読み聞かせ」が盛んになった。この言葉は司書の専門用語だった。運動を進める人たちは、無償で活動する人々である。それに比し出版業界は何をしたのだろうか。出版編集者は産みの親でありながら、本をつくったら営業にまかせてしまう。読者の反応を出版編集に活かさねばならない。建築関係書フェアで、上位店に、知られない小書店が目立っていたのを見た。それは徹底的に建築事務所をマ−クした販売力の成果だった。書店の優劣は大小ではない。

<項目>
●読者への文化的奉仕をする総合センタ−
●日本の現代文化を提供する
●地域郷土文化を育成鼓舞する
●読者の意見を中央へ発信する

 書店は太陽である。それぞれの地域の情報発信基地、受信基地である。文化の広域にわたる全体を取り扱っている。売場の「読み聞かせ」が活発になっている。これまでなかったことである。書店は売り方が下手と言われてきた。実際に出来る。能力がある。日本的な書店作りを。新刊書の供給、これは文化を創る手助けである。

<項目>
●高度化する書店機能を駆使する能力(書誌情報検索・PS処理)
●幅広い文化の素養と経営感覚
●21世紀型書店の創造力

 教育は、自分でも気ずかない能力を引きだすのものである。
21世紀書店は、地域のなかでなにが行われているのか、関心を持たねばならない。お客を迎え、本を売るだけのことであってはならない。
 書店は、読者の声を出版社・取次へ発信する責任がある。これは書店が、太陽であり続けることの要件でもある。1000坪の書店を作っても、それをバックアップ出来る書店員は、忽然と現われるものではない。10年、20年の期間が必要である。

*講師プロフィール*
1930年大阪生まれ。大阪大学法学部卒。(株)田辺企画社長。旭屋書店・旭屋出版で洋書、企画部門から経営担当を経て(株)田辺企画設立。書店新風会会報編集室、出版流通評論、エッセイ、編集企画業務を手がける。著書に「本の森神話学」など。書店新風会顧問、JPIC読書アドバイザー専任講師、書店大学学長。日本出版学会・日本文芸家協会会員。

理想の学校図書館−国民文化祭・出版文化展−/永井伸和  今井書店グループ
<項目>
●ほんとの出会い
●本の学校の二つの源
●ほんの国体(ビデオ上映)
●本の学校の三原色
●いま、なぜ学校図書館か
●学校図書館による教育改革と地域の学び舍づくり
●学校図書館の課題
●理想の学校図書館を求めて
●国民文化祭・出版文化展への夢
●夢、現実、そしてまた夢を!

 概要
 日本の学校図書館は貧しい。新しい学校図書館のイメ−ジを今つくらねばならない。
 2002年10月、第17回国民文化祭が鳥取県で開催される。そのなかで出版文化展を開催され、模擬的に「理想の学校図書館」をつくられる。 1987年、鳥取県で開催した「本の国体」(本の学校ホ−ムペ−ジ)は図書館づくりの運動であった。今なぜ学校図書館であるのか。2002年から教育の基本方針は、教えの教育から学びへと転換がはじまる。
学校図書館は、学びの意欲と力量を育てる学習情報センタ−の機能が求められている。そして図書館は、本を置いた「文倉」から「メディアセンタ−」「メディアライブラリ−」へ変わらねばならない。

*講師プロフィール*
1942年生まれ。早稲田大学卒。今井書店グループ社長。学校図書館や地方出版物の振興運動に参加。